「なんだかさあ、今迄に人があまり立ち入らなかった海域に船を出そうと思うんだよ。」
「そう、良いんじゃないの、面白そうじゃんか。」
「君も乗らないか、この船に、君が必要なんだ、一緒に行ってくれないか。」
「ああ、そう言うだろうと思っていたよ、もう荷物はまとめてあったんだ。」
「話が早い、乗った乗った、さあ、他の乗組員を紹介するぜ。」
船の生活は楽しくて、色んな刺激を僕にくれました。はるか遠く迄行き、遠くの港で見た事の無い景色を見たり、そこで出会った他の船乗り達と言葉を交わし、また合おうと握手をする。そしてまた遠くの港へ赴いて、伝説の船乗りとも酒を飲み、語らう事ができた。この船はきっと何処迄も行けるんじゃないかと本気で思っていたんだ。
でも、途中で船を降りていく人や、仲間どうしの喧嘩、他の船に誘われて行ったり来たりする人、家庭の事情で陸に上がる人、最初に描いた航路とは違って、行き先が見えなくなって来たり、船が故障したりと、このところ困難が続いている。昨日また一人、この船には気に食わない奴が居る、そいつが降りないなら俺は降りると言って陸に上がって行きました。
船長はなんだかやる気だけあって、でも行き先を決める事を放棄している。
副船長は酒に溺れて、自我をすぐに無くす様になってしまった。
他のベテラン乗組員はこんな事慣れっこだと言いながら他の船の乗組員と楽しそうに話している。下っ端はオドオドしながら皆の顔色をうかがっている。
僕は、楽しかった頃を思い出しながらノスタルジーに浸って、沈みそうな船の上で陸の方を見ている。始まりがあれば終わりもある、でも他の船に乗る気はない、でも行き先は決まっていない。この船は一度、修理が必要だ。乗組員達も一度、陸に上がって生活を送る事が必要かもしれない。またいつか水平線の向こうに何があるのか見たくなる事があると思う、それこそが生きている意味だと本当に思えるからだ。この船が教えてくれた、唯一本当の事だ。
そして、
「おーい、起きろ、準備は万端、エンジン絶好調、あとはお前が乗るだけだ」
「今行くよ、退屈すぎて昨日飲み過ぎたんだ。」
-----船乗りという名のバンドマン達------
著:ベトナム坊主
発行:ハードコア書房 より抜粋
こんにちわ。ラコスモスです。バンドって続けていると色々あるよね。
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